不易流行インタビュー第三弾「100年分の技で描く想い②」-友禅模様絵師 寺澤森秋さん インタビュー(@信州新町)

「バティックとの運命的な出会い」

インドネシアを旅行中に、孔雀を描いたバティックの裂(きれ)が目に入り、その技術の高さ、繊細な表現に魅入られた。

この出会いから、寺澤さんの作品に大きな影響を与える技法とのマリアージュがはじまったそうだ。   今回は、長野県信州新町の工房で前回お届けした寺澤さんの後編である。


バティックとは、「蝋纈(ろうけつ)染めの布」のことで、古来ジャワ更紗の名称で知られており、2009年にユネスコによって世界無形文化遺産に認定されているインドネシアの伝統的な布製品である。

 

作者を探し、国中の工房を訪問・・・

出会ってしまった。 インドネシアのサロン(布)を目にすることは多々あったが、そのバティックの孔雀は日本には無い図柄だった。 活き活きとした立体的な表現。 一目で惹かれ、どうやって描いているのか知りたくで、作者のことを聞いてみたが、知らないとのこと。 この時から、作者を探すことを決意して、同じ作風の作品がないかを探し回った。

当初は、そこまで苦労せずにたどり着けるのではないかと考えていたが、これが甘かった。

あらゆるつてを伝って、様々な工房を訪ね歩いたが、インドネシアは何万(インドネシアは1万3千466の島からなり、6千852の日本と比べても如何に多いか想像に難くない)もの島々なので作者にたどり着かない。そして、訪ねた工房の職人たちも、その作品の作風を持つ作者を知らないということだった。

裂を頼りに作者を突き止めるのは無理なのかと諦めかけたある日、思いがけないところから状況が動いた。

 

その日、寺澤さんはジョグジャカルタに居た。

工房を訪ね歩き、めぼしい情報に当たらず落胆して滞在先のホテルに戻った。

部屋に帰る途中の廊下で、ふと壁に目をやると、そこには美しいバティックの額装があった。 その瞬間、目を奪われた。

同じ作風だ。間違いないと思った。

慌てて、ホテルのオーナーに、「この裂の作者は誰か知っているか」と尋ねた。 すると、オーナーの娘さんの旦那だと言うのだ。 そこで、元の鳥の裂を見せ、ずっとこの作者を探しまわっていたと告げると、驚きながらも感動し、ジャカルタのパサールミンゴという場所にあった工房が、残念ながら潰れてしまったことを教えてくれた。

当時、バティックも日本と同じ状況にあって、良いものが作れなくなってきていた。 プリントの技術が上がったため、一般人が見ても、その差は解りにくい。

特に中国製のプリントが安価で大量に出回っているため、手間のかかるバティックの良さを理解して求める人が激減してしまった。

これも日本の伝統産業の状況に酷似しているが、2009年にバティックが世界無形文化遺産に認定されて以降、結婚式、卒業式だけではなく、インフォーマルな場でも着用が増えてきているようだ。

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不易流行(その2)・・・バティックと友禅のマリアージュ

ジャワ更紗の蝋纈(ろうけつ)は、物凄く細かい柄を表現できる。 自分の友禅と、この更紗模様を組み合わせた表現ができたら、とても面白いと直感的に感じた。

それから、寺澤さんの、日本とインドネシアを往復する創作活動が始まった。

協力してくれる工房に行って、蝋纈染めで表現してほしい個所を指示する。 だけど、蝋も染料も日本とは異なる上、仕上がりを左右する気候も違う。 だから、そう簡単には行かなかった。
何度も失敗した。すかっと仕上がらなかったり、にじみが出てしまったり、線が太すぎたり、寒色はよいが暖色がうまく表現できなかったり。  染料を工夫したり、生地、気温を考え、太陽光で発色させたり、段階的に蝋を置いたり。ともかく経験を積んだ。

ようやく思うようなものができるようになってきた。  

写真では難しいと思われるが、実物の点描の細かさは凄い!の一言。(背景画像参照)

インドネシアのジャワ更紗の蝋纈技法を友禅に取り入れることで、まったく新しい模様絵を生み出した。2004年には上野のきもの美術館にて「バティックと友禅染の融合」と題した展示会を、染織春秋の同年7月には同名のタイトルで特集が増刊号として刊行された。

 

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 まだまだ寺澤さんの挑戦は続く。現在はホテルの襖絵を作成中だ。

10枚組の大作で、図案の構想に2年、実物大にして地入れを行い、色刺しという手順になる。

最近は、アイディア、気持ちを捉えるためにプリンターが便利だった。トレーシングペーパーに拡大し、実物大にして貼ってみる。

(工房には、実際に実物大(8m×2m)の制作中の素描を壁に貼ってあり、拝見することができた)   2,3週間するとイメージが変わってくる。こうやって貼って、腹落ちするのを待っていると、もっとこうしようとか出てくる。

そろそろ仕上げておさめようと思っている(7年越しの大作になってしまわれたそうだ)。    

 

願い・・・

様々なチャレンジをされてきた寺澤さんだが、以前に比べ需要が激減した。後継者もいないという状況だ。それでも良いものを残したいという一心で作品に心血を注いでおられる。  

振袖はきもの5枚分(手間と絵の面積が)かかる。着ても普通と思われるものではつまらない。 ユニークなものを作る。すると癖になる。だから手が抜けない。 職人は「とりあえず」で妥協したら手が荒れる(作品の質が落ちる)。そうなったら元には戻せない。 だから手間を惜しまず、良いものを作ることを諦めない。

多くの人に良いものを見て欲しいし、触れてほしい。願わくば手に入れて着て欲しい。  

 

 

このインタビューの約一月後、我々夫婦は再度、長野の穂高のイベントに展示中の寺澤さんを訪問した。 前回のアトリエで拝見したものとはまた別の作品を拝見できた。 どの作品も迫力があり、「素晴らしい」の一言だ。

特に白い地色に白の菊を描いた作品は圧巻で、決して派手な色使いではないのに、見るものを圧倒する。

  この長野の3回の旅を通じて改めて感じたことは、“ホンモノ”に出会うことの大切だ。 一流と言われる作品を沢山見て触れて感じてみることで、人生観も豊かになる。

絵画でも、器でも、音楽、宝石といったものでも、作品にまつわる歴史や物語も含めて感銘を受けるものだと痛感する。   そしてその出会いの数だけ感動する。高額な商品を沢山手に入るのは経済的な理由で難しいが、“ホンモノ”に出会うだけでも感性が磨かれるのではないだろうか。

そのための一歩として、作品の物語を知ることから初めてみてはいかがだろうか。

 

寺澤作品が見られる場所のご案内:丸の内の東京中央郵便局KITTE5階エスカレーター正面にある壁面と、松本光屋店内に展示

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上記が壁面の絵、全体像は大きいため、是非現地でご照覧あれ。下記が松本光屋さん店内にて鑑賞できる。

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